許認可と会社の「目的」
法人で許認可を要する事業を行う場合の申請には、多くの場合定款の写しや登記事項証明書の添付が必要になります。この際に注意が必要なのが、会社の「目的」に、申請を行う事業に関する項目があるかどうかという点です。
定款の変更登記には登録免許税がかかり、司法書士に依頼するとその費用もかかるので、会社の設立時、すぐに開始しない事業も遠くない将来行う可能性があるのであれば目的に掲げておく方が良いとは思いますが、書き方によっては許認可申請が通らない、といった事例もあるようですから可能であれば、事前に許認可の所管行政庁に確認しておく、といったことが望まれる場合もあるでしょう。
このページでは、会社の目的が許認可の審査に必要な根拠や、いくつかの許認可における事例等を確認していきたいと思います。
会社の「目的」とは
民法では、第33条(法人の成立等)において「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ成立しない」と定め、さらに第34条(法人の能力)で「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲において、権利を有し、義務を負う」と定めています。
自然人について民法は、第2章(人)の中、第3条で「私権の共有は、出生に始まる。」としていることと比較するとわかりやすいですが、自然人と違って法人は「法律上の手続により成立し、権利義務の主体となり得る」ということですね。
ここで重要なのが、上記34条の「定款その他で定められた目的の範囲において、権利を有し、義務を負う」という部分です。逆にいえば、定款等の目的の範囲を超えた事業等については権利を有しない(義務も負わない)」ということになります。
許認可の審査における実態
前述のように、定款の目的外の行為は「権利を有しない」といえるので、許可を受けて(あるいは免許、登録等を受けて)ある事業を行う場合、その行為(営業)を開始する時点からその営業を終了するまでの間、当該事業が定款も目的の範囲内にあることが求められます。
いつの時点で該当の目的が必要か
では、許可や免許、登録の申請を行う時点で、その法人の目的に許認可を求める事業が含まれていることが必要でしょうか?
建設業法、宅地建物取引業法、一般貨物自動車運送事業法‥‥などの「業法」で、会社の目的の記載内容自体を許可等の要件として定めている例はほとんどない(または全くない)と思われれます。だとすると、「目的の有無」は許認可の法定の要件ではないということになります。
法定はされていないものの、次項に記した旅行業登録や古物商許可の場合のように、行政が示す必要書類一覧などに明確に記してあるケースでは、申請時点で事前に示された目的に合致させるよう求められる可能性が高いと思います。法令自体で定めていない事項であれば行政指導に当たると思われ、その場合には従う義務はなく、また行政機関も従うように再々求める行為は禁じられていますが、現実はほとんどの方が指導には従っているのが実態だろうと思います。
目的の書き方が定められている?ケース
次に、目的には該当する事業が定めてあるが、”書き方”が違うケースはどうか、考えてみます。
例えば東京都が定める旅行業登録の「新規登録書類一覧表」では、定款または寄付行為について ”「目的」は、「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」とする”、と書かれています。
「‥‥とする」と書かれていると、意味が同じでも表現が違うことを許さないという印象がありますね。旅行業登録の場合、埼玉県を含め他のほとんどの道府県でも同様に定めているようです。
旅行業の場合、世間では「旅行業者」のことを旅行代理店と呼ぶ場合が多くあり、またそれとは別に”旅行業者代理業”という業種もあることから混乱を避けるようにガイドとして定めているのではないか?というのが筆者の推測です。申請ガイドと意味は同じだが異なる表現・・・の場合、登録拒否になるのか?現在のところそのような事例を扱ったことがないのでわかりません。
古物商許可の場合も、目的を「古物商または古物営業法に基づく古物商」としておくとよい、と書かれているウェブサイトも多くあります。
目的は設けられているが書き方が違うという理由で許認可が却下された場合、闘う余地は充分にありそうだと思いますが、そこにエネルギーを使うか、目的の変更に時間と労力、金銭を使うか…等いことになり、こちらも多くの場合「大人の判断」がなされているかと思います。
参考 旅行業登録について
目的について「柔軟に」運用されているケース
「自家用自動車有償貸渡」許可という許認可があります。いわゆるレンタカー許可です。国土交通省所管で窓口は都道府県ごとに設置されている運輸支局です。法令でいうと、道路運送法第80条、同法施行規則第54条に許可に関する規定があり、それに基づいて許可について詳しい要件が公示文書で示されています。
その公示文書に、法人の目的については何も書かれていません。申請書には登記簿謄本(正しくは、通常は履歴事項全部証明書)の添付を求められ、申請受理の際の形式審査では担当官が目的欄をチェックします。
わたしが開業して最初にレンタカー許可申請した際は、公示文書にかかれていないこともあり、該当する目的が設定されていない謄本を添付して提出したところ、担当官ら「この申請は受理するが、後日目的を追加して謄本を提出するように」と指示されました。
このケースでは事業者様にお伝えし、株主総会決議(一人総会)を経て登記申請を行いましたが、登記完了前に許可連絡があり、その旨運輸支局に申し出たところ、総会議事録の提出を指示されました。議事録をもって窓口に行くと許可書が公布されたので、この後目的の設定された登記簿の提出が必要か確認すると、「そこまでは求めないが、確実に登記完了するよう事業者に伝えておいてほしい」と指摘されました。
その後、関東運輸局管内の他の支局への申請案件で事業者様に確認したところ、レンタカー業等は目的に入っていないとのことだったので、運輸支局に「該当目的は後日の追加でよいか?」と質問したところ、適切な目的が入った謄本を添付して申請するようにとの回答でした。
さらに、関東以外の地方運輸局管轄地域のお客様からご依頼があった際に各運輸支局に確認すると、複数の支局が「法人の目的については特に問わない」という運用をしていることがわかりました(おそらく、支局というより地方運輸局単位で運用が異なるのではないかと思います。
さらには、一度「物品の賃貸借」という目的が入った法人からレンタカー許可をとりたい、というご依頼があり、さすがにこれはダメが出るかなと思いつつT運輸支局に照会したところ、「問題ない」との回答で、事実そのまま許可が出ました。
まとめ
許認可事業が異なる、許可・登録権者の行政庁が異なる・・・とはいえ、法人の目的一つとってもいろいろ取り扱いが異なるものですね。
これらは、突き詰めていえば、職業選択の自由、営業の自由、法の下の平等‥‥などなどに反するケースがないとはいえなさそうです。
とはいえ、日本人的には長いものには巻かれつつ省エネ行動するのが間違いとは言えない、というところでしょか。
またこの件について興味深い案件等を扱った際には追記していきたいと思います。